乳がんって言ったこと後悔してる|職場復帰後の「空気感」とわたしの選択

2026年1月14日水曜日

乳がん

グレーの背景を背に、眼鏡を外して静かに前を見つめるボブヘアの女性のイラスト。「Breast Cancer Journal」の文字が添えられている。
画像生成:Gemini

※この記事は、乳がんという病気に対して、わたしが「周囲に伝えるべきではなかった」と個人的に後悔している経験を綴ったものです。


決して「絶対に周囲に伝えるべきではない」と一律に主張する意図はありません。


治療の状況や体調によって、周りの理解や配慮が何よりの支えになる場面はたくさんあります。


これはあくまで、ステージ2aで比較的体調が安定していた「わたし」という一個人の、ひとつの苦い経験と選択の記録として受け取っていただければ幸いです。




数年前のインスタグラムに、わたしはこんなことを書いていた。


いよいよ来週手術。明日出社したらしばらくお休みします。 その前に、部署のメンバーに送別会をしてもらいました。 上司がおごってくれたひつまぶし、美味しかった。

 

会社の人には、乳がんのこと、検査の段階から全て話しています。 包み隠さず伝えることがわたしにとっては自然で、仲のいい人には卵子凍結のことまで話しちゃってる。 なんでも話せちゃうくらい、良い会社なんだ。

まだ休職前なのに、もう復帰したいって思ってる自分がいます。

 

当時のわたしは、本気でそう思っていた。
乳がんの告知、手術、そして卵子凍結。

次々に襲いかかってくる現実を乗り越えるために、わたしはアドレナリンを全身から放出し、周りに「旗」を振ることで自分を鼓舞していたのだと思う。


「わたしは大丈夫。こんなにオープンに戦っているんだから」と。


でも、今のわたしが当時の自分に会えるなら、肩を強く掴んでこう言いたい。


**「一度冷静になって、打ち明ける相手を選びなさい。直属の上司と、どうしても仕事で負担をかけてしまう数人。それ以外には、絶対に箝口令を敷きなさい」**と。


善意という名の「土足」と、わたしの無作法

職場復帰してしばらく経った頃、あんなに温かくわたしを包んでいたはずの「繋がり」は、
いつの間にかわたしを縛り付ける冷たい鎖に変わっていた。


顔を合わせるたびに、みんなが優しく声をかけてくれる。 


「元気?」「無理してない?」


その響きに悪気なんて一滴も混じっていないことは、痛いほどわかっている。
けれど、その響きこそが、当時のわたしには何よりの苦痛だった。


ステージ2aで幸いにも体調への影響が少なかったわたしにとって、みんなのかけてくれる言葉は、「今のわたし」を透明にしてしまうものだったのだ。


実は乳がんと告知されてから今日まで、がんそのもののせいで体調が悪かったことは、一度もなかった。


抗がん剤の倦怠感や、ホルモン療法の薬がもたらす重だるさに立ちすくむ日はあったけれど、それはあくまで薬の影響であって、わたしの核にあるものは、ずっと「乳がんになる前のわたし」だった。


それなのに、わたしは自分からそれを手放し、周りに「乳がん患者であるわたし」を突きつけてしまった。


何でも話すことが「自然」だと思っていたけれど、それは受け取る側に、ある意味「わたしに気を遣い続けてね」という重荷を背負わせるのと同じだったのかもしれない。


彼らが息を吸うように聞いてくる「元気?」という言葉は、突然重い事実を突きつけられた彼らなりの、精一杯の誠実な歩み寄りだったはずだ。

それなのに、自分で蒔いた種なのに、わたしは勝手にその優しさを「逃げ場のない息苦しさ」として受け取ってしまった。


一度外に漏らした言葉は、もう二度と回収できない。
わたしは自分の手で、みんなとの間にあった「以前の距離感」を壊してしまったのだ。


自分で選んだ、静かな自由

結局、わたしはあんなに大好きだった会社を去ることを選んだ。
誰のせいでもない。
自分で作り出してしまった「空気感」と、気を使わせ続けてしまう申し訳なさに、耐えられなくなったから。


そうして今は、フリーの在宅ワーカーとして働いている。
これから先、仕事の相手はもちろん、新しく出会う誰に対しても、わたしの病歴を話すつもりはない。


目の前にいる相手にとって、わたしはただの「わたし」だ。
そこには「元気?」という特別な心配も、わたしの体調を推し量るような視線も存在しない。
何事もなかったかのような「平熱の日常」は、ストレスフリーだ。


あの時のわたしは、確かに誰かに打ち明けることでしか、あの荒波を越えられなかったのかもしれない。
でも、その代償はあまりに大きかった。


もし過去の自分に会えるなら、優しく、でも力強くこう伝えたい。


「もしあなたが、誰かの助けを借りないと立っていられないなら、迷わず話しなさい。でも、もし病気というラベルを剥がした『わたし』として扱われたいと願うなら、その情報は、あなたを守るための、そして相手を困らせないための最後の砦として、大切にしまっておきなさい」と。


今のわたしは、誰にも何も言わない。
けれど、それでもたまに、行き場のない言葉たちが胸の奥で小さく騒ぎ出す。


だから、わたしはこうしてブログを書いている。
日常という大切な砦(とりで)を守りながら、ここだけで、こっそりと旗を振る。




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わたしの乳がん備忘録 | 記事まとめ


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そう

夫と猫のルイくんと暮らすアラフォー。
乳がん罹患をきっかけに
がんばりすぎない暮らしへシフト中。
専業主婦になりたい在宅ワーカー。

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