【乳がん入院生活】左胸全摘後、情報の海に溺れたわたしを救ったのは半沢直樹だった

乳がん入院生活の不安と向き合う女性のイラスト。スーツ姿で指を合わせる半沢直樹風のポーズ。
画像生成:Gemini


この記事は、当時インスタグラムに書いていた乳がんの話を、ブログ用にリライトしたものです。

自分の記録として、そして、誰かの役に立てばうれしいなと思って書いています。



術後の違和感と、消えない「脇のタオル」

左胸の全摘と14個の腋窩リンパ節郭清をした。
手術が無事に終わって驚いたのは、左胸を全摘したはずなのに、不思議なほど痛みがなかったこと。
腕もぐるぐると動かせるし、自分の体は案外タフなんだなって感心していた。


▼手術当日の記事はこちら
【手術レポ】左胸全摘とセンチネルリンパ節生検、14個の郭清のこと


けれど、どうしても拭えない違和感があった。
それは、脇の下にずっと「丸めたタオル」を挟んでいるような、なんとも言えない異物感。


「これが一生続いたらどうしよう……」と、ふとした瞬間にどんよりした気持ちが顔を出す。
先生に相談したら「しばらくすれば違和感は取れるよ」とあっさり言われ、実際その通りになった。


けれど、当時のわたしにとってその不自由な感覚は、単なる肉体の違和感を超えて、これまで積み上げてきた当たり前の日常を音を立てて壊していくのではないかと、怖くてしょうがなかった。



リンパ浮腫という、目に見えない恐怖

それから14個の脇の下リンパ節を取り除く「郭清(かくせい)」をしたことで、避けて通れないのが『リンパ浮腫』のリスク。


リンパ浮腫とは、手術でリンパの通り道が途絶えたことで、腕に水分が溜まってパンパンに腫れてしまう後遺症のこと。
一度発症すると完治が難しく、一生付き合っていかなければならないという重い現実がそこにはある。


発症を予防するために看護師さんからリンパドレナージ(マッサージ)の指導を受けたけれど、調べれば調べるほど、その怖さに足がすくんでしまった。


日常の何気ない動作――例えば重い荷物を持つことや、虫刺され、日焼けですら引き金になることがあるという。
わたしの左腕は、もう以前のようには自由でいられないのかもしれない。
そんな絶望が、じわじわと胸を締め付けた。


そうして「自由を奪われる」という恐怖が、皮肉にもわたしの心のトリガーになった。

今まで卵子凍結(妊孕性温存)のことばかり必死に考えていたけれど、ここへ来て急に「わたし、本当に乳がんなんだ」という現実が、冷たい波のように押し寄せてきたのだ。


▼合わせて読みたい
乳がん治療と未来のために——妊孕性温存を決意


「リンパ節を14個も取ったなんて、深刻な事態なのでは?」
「ステージ2aって言われていたけれど、本当はもっと進行しているんじゃないか?」

夜、病室の電気が消えると、そんなネガティブな妄想が止まらなくなる。
ベッドで横になりながら、一人でしくしく泣く夜が続いていた。
こんな時にスマホなんて便利なものがあるから、不安を埋めるための情報が、逆に湯水のように押し寄せてくる。

「もうやめなよ」と自分に言い聞かせても、指は勝手に次のページを探して、また怖くなって涙が出る。
暗闇の中で、情報の海に溺れながら一人で泣き続けるのは、本当にしんどかった。



救世主は、まさかの「半沢直樹」

そんな絶望のどん底にいたわたしを救い上げてくれたのは、意外すぎる人物だった。
お昼どき、たまたまテレビをつけたら『半沢直樹2』の最終回直前ダイジェストが流れていて、その熱量に目を奪われた。


そこからはもう、半沢のことで頭がいっぱい。
それまでスマホでがんやリンパ浮腫の情報を漁って不安の波に溺れかけていた指は、いつの間にかTVerでこれまでの放送を追いかける指に変わっていた。


幸いなことに個室だったので、消灯時間を過ぎてもテレビやスマホの明かりを気にせず、自分のペースで過ごすことができた。
静まり返った夜の病室で、わたしは一人、半沢の戦いに釘付けになった。


それまで一度も観たことがなかったのだけれど、画面の中の半沢が放つ圧倒的なエネルギーと、「倍返しだ!」の凄まじい気迫。
どんな巨大な悪や理不尽な状況でも、ボロボロになりながら前を向く彼の生き様は、今のわたしの状況に重なった。


「泣いてばかりいても、しょうがない。わたしも、わたしの戦いをするしかないんだ」


深夜まであの熱狂に浸れたことが、わたしの心に静かな、でも消えない火を灯してくれた。
ドラマを観終える頃には、なんだか自分の中の「弱気な自分」がシャキッと背筋を伸ばし、いつの間にか涙も止まっていた。



知っておきたい:リンパ浮腫と向き合うために

半沢に勇気をもらって、「正しく怖がる」覚悟が決まった。
ここで、わたしが国立がん研究センターの情報を参考に学んだ、リンパ浮腫の基礎知識をシェアしておく。

1.あらためてリンパ浮腫ってなに?

リンパ管が切除されたり圧迫されたりして、回収されなかった体液が皮膚の下にたまって、むくんだ状態のこと。一度発症すると完治は難しいとされているから、「予防すること」と「早く見つけて適切にケアすること」が大切。

2.早く見つけるためのサイン(セルフチェック)

お風呂上がりなどに、左右の腕を比べて以下のサインがないか要確認。

  • 見た目の変化: 皮膚のしわがなくなる、テカテカしている。血管や手の甲の筋が見えにくくなる。

  • あとの残り: 指で軽く押すとあとが残る。時計、指輪、下着のあとが消えにくい。

  • 感覚の変化: 腕が重い、だるい、といった違和感がある。

  • つまみやすさ: 皮膚をつまんだとき、左右で厚みが違ったりつまみにくかったりする。 ※太さを測る場合は、治療前より1cm以上太くなっていたら相談の目安。

3.日常生活で気をつける「スキンケア」と「保護」

細菌感染による炎症(蜂窩織炎:ほうかしきえん)を防ぐのが鉄則。

  • 清潔と保湿: 優しく洗い、タオルを押し当てるように拭く。乾燥を防ぐために保湿剤をこまめに。

  • 傷を作らない: 深爪、虫刺され、日焼け、やけど、ペットのひっかき傷などに注意。野外では長袖や手袋でガード。

  • 締め付けない: キツい下着や腕時計、重いバッグの肩掛けも避ける。

  • 肥満を予防する: 体重が増えるとリンパ浮腫のリスクが高まるから、バランスのよい食事を。

  • 流れを促す: 長時間同じ姿勢を避け、横になるときは枕などで腕を10〜15cm高くして休む。

※参照:国立がん研究センター がん情報サービス「リンパ浮腫」


6年経った今の、わたしとリンパ浮腫

そんな風に気をつけすぎていた入院生活中、事件は起きた。
何かの拍子に、親指の付け根を自分の爪でちょっとひっかいてしまったのだ。
ほんの少し、血が滲む程度の小さな傷。

けれど当時のわたしは「これでリンパ浮腫になったらどうしよう!」とパニック。
真っ青な顔で先生に泣きついたら、鼻でフッと笑われて「その程度なら大丈夫だよ」と一笑に付されてしまった。


恥ずかしかったけれど、その「笑い」にどこか救われた自分もいた。
「あぁ、そんなにガチガチに構えなくてもいいんだな」と、張り詰めていた糸がふっと緩んだ気がした。


あのパニックから、もうすぐ6年。
正直に言うと、今は当時ほど神経質には気にしていない。
愛猫のルイと一緒に暮らしているから、たまに引っかかれちゃうこともあるけれど、そんな時は冷静に傷口を水洗いして消毒する。
あかぎれができてから「あ、いけない」と慌ててハンドクリームを塗り込むこともある。
土いじりだって、手袋はしっかりつけるけれど、普通に楽しんでいる。


「絶対ダメ!」と自分を縛り付けるのではなく、リスクを正しく知った上で、今の生活を大事にする。
あの日、半沢に背中を押されて始まったわたしの戦いは、今、こうして静かで穏やかな日常に繋がっている。


あの時、絶望して泣いていたわたしに「大丈夫だよ」と伝えてあげたい。
今日もわたしは、自分の体と一緒に、新しい一日を歩いている。



※このブログの内容は個人の体験に基づく記録であり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。


乳がん関連記事はこちらにまとめています。
わたしの乳がん備忘録 | 記事まとめ